正論の広場   ご意見を投稿ください  投稿ページ

 

 

 

 

 


     

 


      

 

 

 

二者択一のディジタル思考の蔓延 

「世界一になる理由は何があるんでしょうか? 2位じゃダメなんでしょうか?」

スパコンの開発補助金に対して、蓮舫仕分け人のこの発言が放映されたとき、真っ先に思い出したことは、5年前にITUで開かれたヨーロッパ、アフリカ、中東地域への地上ディジタルテレビのための電波の割り当て会議であった。

 この会議では、各国の要求に基づいて各都市に割り当てるテレビ放送用の電波が、お互いに干渉しないようにするため、極めて複雑な電波干渉のシミュレーションを会議期間中に何度も行う必要があった。そのためCERN(欧州原子核研究機構)の応援を得てグリッド・コンピューティングという技術を活用した。スパコンでは時間がかかりすぎて、定められた会議期間中に終了しないためである。

 スパコンの原理は、計算を多くのCPU(演算装置)に分散して並列処理することによって超高速の演算を行うことにある。大量のデータを処理しなければならないCERNの研究では、このスパコンでもスピードが遅い。そこで、開発された技術がグリッド・コンピューティングである。

 グリッド・コンピューティングは、ネットにつながっているが、100%は使用されていない多数のコンピュータのCPUを活用して並列処理をするもので、基本原理は、まったくスパコンと同じである。違いは、一箇所に集められたCPUを使うのか、それともネットに接続された無数のコンピュータを使うのかにある。そもそも、スパコン以上の能力を生み出すために開発されたグリッド・コンピューティングの技術は、スパコンのスピード競争を、あまり意味のないものにしてしまうものなのである。 

 仕分け人が下したスパコンの開発援助中止の決定に対して、ノーベル賞受賞者や有名大学の総長を始め、多くの学者や評論家が一斉に、「科学技術をないがしろにする暴論だ」と反発した。

しかし、スパコンの開発が、科学技術振興のためにどのように貢献するのか、また、少ない科学技術関連予算を、何に重点的に配分すべきかなどの議論はまったく報道されなかった。まるで、世界一のスパコンがなければ、日本の科学技術立国は成り立たないと言う論調であった。このような専門分野には素人の仕分け人の判断はなじまないという反対論もあった。

仕分け人の決定は、あえなくも政治決着で覆されることになったが、しかし、その過程で、誰も「世界一になる理由は何があるんでしょうか? 2位じゃダメなんでしょうか?」という素朴な疑問に答える者はいなかったと思う。 

人間は、昔から、世の中の複雑な問題を、「勤皇か? 佐幕か?」のように、単純に決め付けがちである。最近は、この単純化がとみに進んでいるように思える。テレビの映像文化や漫画の発達のためか、じっくり活字を読んで考えることをしない風潮が、ますます加速している。

鉛筆を立てたり、ひっくり返して考えた我々の思考プロセスは、あまりにも一瞬のうちに必要な情報を検索できるネットに驚いて、停止してしまったのだろうか? インターネットの発達で多種多様な情報を入手できる手段を得たのに、思考がストップすることは、まことに皮肉なことである。 

ところが、この傾向に待ったをかけたのが参議院選挙での消費税論議であった。コメンテーターや司会者が、単純に、「賛成か? 反対か?」に議論を誘導しょうとしたにもかかわらず、各党代表から多面的な意見が出され、活発な議論が行われた。それは、多数の政党が競ったため、各党の多様な意見が吐露されたためである。

国民は、初めて、国家の財政状況から、無駄遣い状況、他の政策オプションなどを配慮しながら消費税上げ問題を考えることができた。その結果であろうか、出口調査では、なんと国民の6割もが消費税上げは必要であると回答している(読売)。

 選挙結果は、民主党の惨敗であった。選挙直後、その最大の理由をマスコミや評論家は、「消費税上げを安易に取り上げた菅総理の失敗」と単純化して論調した。当の菅総理自身さえも、「消費税に関してやや唐突だった。国民に十分説明できなかった」と反省の弁をしている。しかし、国民の6割が消費税上げは必要であると考えたのである。大きな自己負担を強いる政策に6割もの人が賛成した例は過去にあまりあるまい。

民主党は比例選では最大票を得たが、一人区では、自民党に惨敗した。しかし、その自民党も消費税上げを主張しているのである。消費税上げに反対した人も、その4割は、消費税上げを提案している自民党や民主党に票を投じたと出口調査は報告している(読売)。

この報道された事実だけを見ても、惨敗の大きな理由を、「消費税だ」と言うのは、あまりにもものごとを単純化して、正鵠を得ているとは言いがたい。国民は、多数の政党間の議論のおかげで、状況の理解が進んで投票をしたのに、その選挙結果を判断するにあたって、また、単純化したステレオタイプの出現である。

 我々は、インターネットの普及で、ほしい情報を即座に検索することができ、また、どんな少数意見も発信する手段を得た。しかし、この文明の利器を使いこなせず、マスコミの発するステレオタイプの情報のままにものごとを判断している状況では、まだまだ真のネット社会の到来とは言いがたい。

 

          

◆駐在武官の配置や自衛隊法の改正だけではすまされない(2013-3)

◆あなたはグーグルに個人情報を曝け出せますか(2012-4)

◆情報通信産業発展の芽を摘む電波オークション(2012-1)

ジュネーブの知恵は、地方都市の活性化の参考になるか?(2011-12) 

日本人に欠けるDNA
人を疑う
(2011-10)

◆二者択一のディいたる思考の蔓延 (2010-9)

◆標準化戦略は単眼から複眼へ
    (2010-6)

◆検索エンジンの罠(2010-4)

「技術では勝っている」という言い訳はやめよう (2010-3)

国際化されるインターネット
     (2009-10)

鳩山新政権に期待すること
          (2009-10)

◆緊急経済対策は国民負担
     (2009-4

サル山の奪い合いから賢者の配分へ (2009-4)

有効需要創出のための国費の使い方  (2009-3)

「内需拡大への転換」 に疑問 
        (2009-2)      


真の「構造改革を」
        (2008-12)

日本発の標準化ではなく、世界と共同開発を (2008-10)

メディアは、もっと国際的視野に立て      (2008-9)

A fool laughs when others laugh.(2008-9)

20年後の日本は?
       (2008-7)

前途有望な早稲田の学生に望む    (2008-4)

「民」がすべてではない
       (2007-10)

我々はエゴに勝てるか? 狭い地球で生きるための知恵 (2007-10)

なぜ日本が韓国に負ける のか
    (2007-9)

 

 

 

inserted by FC2 system