国際 ビジネス必携(入門編)

    元ITU事務総局長 内海善雄
 

 

「日経プレミアシリーズ「お辞儀」と「すり足」はなぜ笑われる」 より  
 
 

 国際会議は、文化・価値観の異なる国や、組織を代表するものが、互いに自己の利益を求めて、闘う場である。そこで戦いのルールである議事規則が重要な働きをする。大国といえども、議事規則を無視はできない。

 提案を議論するためには、少なくとも誰かがサポートしなければならないのが一般的なルールである。このことをセカンドというのが、この規則を知らないために、せっかくの意見も聞いてもらえなかった超大国の代表をたくさん見てきた。英語が母国語でしかも超大国の代表でさえ、議事規則を知らなければ、このように取り扱われるのである。

 ところが、あまり経験のない日本の代表には、議事規則の重要性がよく理解できてないことが多いようである。おそらく、多くのことが根回しで事実上決定され、正式の会議は、単に儀式に過ぎない日本では、議事規則を盾に議論するのは、総会屋だけだという特殊な慣習のせいだろう。

 議事手続きをたてに会議をリードする姿は、小国の代表の得意技である。自国の力の欠如を、手続き論でカバーするのである。議事手続きは、実質的力のないものにとっては、最大の武器であり、また、会議の専門家の外交官たちも、会議時間の大半を手続き議論で終始する。

 議事手続きは、それぞれの会議で少しずつ異なるので、是非とも事前によく調べておかなければならない。また国連のサミットのような大きな会議では、最初に議事規則が定められる。しかし、国際会議の議事規則は、ITUで発達したものを基本としているので、ほぼ共通的である。

 ITUは、1865年に設立された、世界最古の国際機関であり、そこで発達した会議のやり方、すなわちルールが、他の国際機関や国際会議に引き継がれ、皆が共通的に意識する共通的な議事規則となった。従って、ITUの議事規則を理解すれば、どこの会議にも通用する議事規則をマスターすることができる。

 同質社会で、それぞれが何を考えているのか分かりやすい日本の社会では、このような会議のルールが明快に意識されてないし、また、そこで通用しているルールも、国際的なものとは異なることがある。会社の役員が、株主総会の前になって、一所懸命に総会対策を勉強しなければならないのは、日ごろから、議事規則に則った会議を経験してないことによることが大きな原因である。

 

     セカンド(Second

 マルチの会議では、どのような提案についても、誰かもう一人の支持発言のない場合、取り上げられないのが原則である。実際は、議長は、その提案について、必ずしも支持(second)の確認を行わず、即座に取り上げる場合もあるし、また、支持の確認をしないまま無視をすることもある。

 議長に無視されたならば、ポイント・オブ・オーダー(緊急動議)をあげ、支持(セカンド)があるか無いか確認を要求することができる。セカンドがあれば、議長は、その提案を取り上げ、議論をしなければならない。しかし、支持発言がない限りは、提案無視の議長の決定に抗議することはできない。

 マルチの国際会議に不慣れなものは、このセカンドの重要性を知らず、支持発言の根回しをしてないために、重要な案件でも無視され、また、ポイント・オブ・オーダーのやりかたも解らないので誰にも相手にされないことになる。

 

 ポイント・オブ・オーダー(point of order 緊急動議)

 ポイント・オブ・オーダーは、議長の行っている議事指揮に反対して、審議中の議案の審議を延期したり、あるいは直ちに投票すること、また、会議自体を解散することなど、手続きに関する動議を緊急に出すことである。ポイント・オブ・オーダーが出されれば、議長は、進行中の議事をストップして、直ちにその動議を処理しなければならない。

 ITUでは、黄色地に黒丸のプラカードが代表団席においてあり、このプラカードを挙げるのが、ポイント・オブ・オーダーである。このプラカードが挙がると、議長は、すべてのことに優先して、挙げた代表団に発言をさせなければならない。

 議長は、まず、緊急動議であるのかどうか判断をする。なぜなら、ポイント・オブ・オーダーを悪用して、内容に関する発言を行おうとする者が、多いからである。本当に緊急動議であって、その動議にセカンドがある場合は、その動議を採決するかどうか決めなければならない。

 緊急動議が出るようなときは、議場は混乱しており、皆、興奮しているので、次々とポイント・オブ・オーダーのプラカードが挙がり、いろいろな動議が同時に出され、益々混乱する。

 複数のポイント・オブ・オーダーの間には、その取り扱いの優先順位が細かく議事規則で決められていて、超ベテランの議長は、順序良く、一件一件処理することができる。しかし、たいていの場合は、いろいろな提案が一気にでるので、議場は大混乱し、議長はどのように対処してよいか解らなくなってしまう。そのような場合には、事務局が議長にアドバイスをしなければ混乱が収まらない。

 ポイント・オブ・オーダーは、会議に不慣れの代表では、なかなか行うことができない。しかし、これを頻繁に使い、自分に有利に進める会議規則に精通した顔役もいる。議長にとっては、頭痛の種であり、ポイント・オブ・オーダーを避けるため、ついつい、このような顔役のごり押しが幅を利かすことになる。

 

はじめに

1 基礎的なプロトコール

挨拶

レディーズ・ファースト

敬称

序列

上位席

座席配置

レセプション

ディナー

テーブル・プラン

ビジネス・レター

レセプションで成功 の秘訣

2 プレゼンテーションの基本

スピーチ

原稿作成の秘訣

アイ・コンタクト

パワーポイントの使い方

 国際会議出席

会議の種類

議事規則の基本

会議用語


会議 成功の秘訣

inserted by FC2 system