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ミモザ生活文化研究所  

 

 

著述 講演 国際人養成実践講座 新聞・雑誌掲載記事 ジュネーブ便り 事務総局長スピーチ

               内海善雄    YOSHIO UTSUMI  for Global Development  

 国際電気通信連合(ITU)で、8年間事務総局長をしましたが、引き続き、国連情報社会サミットで合意した情報社会の建設に微力を捧げたいと思います。

 2010年より雑誌「エルネオス」に 毎月投稿した「やぶ睨みネット社会論」は、8年間継続し、100回目を達成しました。出版社のご理解を得て、100回分を取りまとめました。

 

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 「エルネオス 」 6月号  やぶ睨みネット社会論より  

リーダーの「嘘も方便」

偉大な指導者達は、大きな嘘をつく。大衆に夢と希望を与え、大衆を動かすためには、嘘もやむを得ないのだろう。

 「嘘も方便」だという。法華経−譬喩品(ひゆぼん)にある「三車火宅」の喩えが由来だそうだ。 ある日、長者の家が火に包まれた。中では、恐ろしい火事であることも分からず、子供達が夢中で遊んでいて、「逃げろ」という声には耳を貸そうともしない。そこで長者は「門の外に、お前達が欲しがっていた羊の車と鹿の車と牛の車があるから出ておいで」と言って子供たちを外へ出させたという。もちろん長者とは釈迦のことであり、嘘も衆生の救済のための方便だという教えである。

世界の方向を決定した嘘

 歴史上、リーダーの嘘がその後の世界の方向を決定したという点では、次の英・米の二例の右に出るものはないのではないか。第一は、フランス仲介によるナチス・ドイツとの和平を望む大多数の英国民に対し、徹底抗戦・勝利を訴え、国民の気持ちを変えてナチとの全面対決に導いた有名なチャーチル首相の勇ましい演説である。実際は、イスメイ軍事首席補佐官に「3か月後もすれば、君もわしも死んでしまうだろう」と話し、悲観的な戦争の見通しを持っていたとのことである。

そして2番目は、真珠湾攻撃を探知していながら敢て放置し、奇襲を成功させて孤立主義だった米国に第二次世界大戦参戦への道を開き、卑怯な日本人というイメージを国民に植え付け、戦意の高揚を図ることに大成功したルーズベルト大統領の例である。

どちらの例も、歴史的なターニング・ポイントで、嫌がる国民を多大な犠牲を強いる全体主義との戦争に導き、現代の国際秩序を築いた偉業であるといえる。

ところで、この両者に負けたヒットラーも、「わが戦闘」の中で、「大衆は、小さな嘘よりも、大ぼらに騙される」と言っている。[The great masses of people will more easily fall victims to a big lie than a small one. Adolf Hitler] まさに、この言通り大ボラを吹いて世界中を戦争の犠牲にさせた。やはり何のために嘘をつくのか、その目的が問題なのだ。

目を現代に転ずれば、普通の政治家や役人が、ごく普通の時に嘘をつく。世の中、嘘八百、昔の倫理観から見れば世も末である。

西の横綱は、何と言ってもトランプ大統領だ。トランプ氏のウソ発言を毎日チェックしている(Fact Checker)ワシントン・ポスト紙が、最近、昨年1月の就任から今年4月末にかけて、嘘や人を誤らせる主張を3千1回繰り返し、それは1日平均6.5回に当たると集計結果を発表した。

さて、東の横綱は?と思いきや、突然、天才的な人物が出現した。北朝鮮の金正恩委員長である。板門店での南北首脳会談で見せた礼儀正しくユーマーのある立ち振る舞いに、世界中が南北融和や核の廃絶に期待を抱いた。特に日本のメディアは、側近や部下を何百人も粛清、実兄さえをも暗殺し、国民を飢えに苦しませた人物であることを、一瞬で忘れ去っているような報道ぶりだった。

性善説の日本人

元来日本人は嘘をつけない国民だと思う。そして嘘をつかれると容易に騙される。子供の時から、「嘘をつくと閻魔に舌を抜かれる」「嘘つきも泥棒の始まり」と教えられ、正直者は得をすると「花咲じいさん」を聞いて育つ。皆が正直者だから、人を疑うことを知らない。普通の日本人は、生まれつきか、それとも教育による結果なのか、とにかく性善説の世界に住む。従って、嘘をつかれたことがわかると軽薄な嘘にも神経質に怒りを覚える。モリカケ問題や、防衛省や財務省などの不祥事に関して1年以上も国を挙げての最大問題となり、国会が空転するのもこのあたりの国民性に反する政治家や役人が出現したからだと思う。

一方、西洋では、オオカミに騙される「赤ずきんちゃん」や「カラスとキツネ」のような騙し合いの童話を聞かされ、小さいときから人を疑い、騙されないように育てられる。彼らは、民族の攻防・闘争の中の性悪説の世界に住んでいるのである。そのため嘘をついても、つかれても、日常茶飯事で抵抗力があり、案外平気でいるものなのだ。

おもしろいことに、20年近く前だがCNNで、「子供の集団を調査したら、嘘をつける能力を持っている者がリーダーであった」という調査結果をレポートしていた。もし日本で同じような調査をしたらどうなるだろうか? 

わが国を動かす嘘

ところが、普段嘘をつくのが下手な日本人も、大義のためには大きな嘘をつくことができる。「嘘も方便」を教えられているからだろうか。

明治維新は偽の「錦の御旗」で始まり、戦前は、まじめに考えればあり得ない日本神国論や大言壮語のたぐいである八紘一宇の思想に駆られた。結果としては太平洋戦争や敗戦という誤った方向に進んだが、一億の民が大いに奮起して動いたのである。

戦後は、「自衛隊は合憲」ではないだろうか。 自衛隊は、普通素直に見れば戦力となり、憲法9条第2項( 陸海空軍その他の戦力は、これを保持してはならない。)に反するように見える。しかし、「憲法は自衛のための自衛力を禁止しているわけではない」という政府の憲法解釈により、合憲とされている。

韓国の独島義勇守備隊が竹島を不法占拠した1952420日には、自衛隊の前身の警察予備隊しかなかった日本はなす術もなかったことを思い起せば、状況の変化に対応した柔軟な憲法解釈は、まことに見上げたものである。これこそ、釈迦が説く「嘘も方便」ではないだろうか。我が国が諸外国の信頼を得るための基本にしている憲法9条を、いまさらいじる必要性は全くないと思う。

 八方塞がりとなって国全体が沈没しそうな日本において、国民の関心が個人的な短期の利益追求や保身のみになり、改革を厭う現状は、まさに「三車火宅」の譬え通りの状況である。遊びに夢中の日本人を救えるのは、いくら「火事だ」と叫んでも駄目で、お釈迦様の嘘以外にはないのかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

  

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