ホーム
最近の活動
正論の広場
教育啓蒙活動
国際協力
ボランティア
プロフィール
連絡方法
English
ミモザ生活文化研究所  

 

 


内海善雄  前ITU事務総局長  International Telecommunications Adviser  YOSHIO UTSUMI

 

 

著述 講演 国際人養成実践講座 インタービュー・雑誌 ジュネーブ便り 事務総局長スピーチ

 国際電気通信連合(ITU)で、8年間事務総局長をしましたが、引き続き、国連情報社会サミットで合意した情報社会の建設に微力を捧げたいと思います。

 

 

正論の広場  ジュネーブの知恵は、地方都市の活性化の参考になるか?」

 

多額の補助金で公共交通手段を維持

最近、10数年間住んでいたジュネーブへ、一介の旅行者として帰った。すると、日本の都市にはない便利さや合理性が改めて強く感じられ、見習うべきものもありそうだと思った。

ジュネーブ州は、中心部のジュネーブ市が人口18万、周辺の街々をいれても数十万人程度の狭い地域で、日本の一般的な県庁所在地とほぼ同規模である。

古くからイタリア、フランス、ドイツ地域を結ぶ交通の要所として発達した。1602年、サボワ公国との戦いに勝ち、自由都市として小さいながらも一国を形成し、今でもRépublique de Genève(ジュネーブ共和国) と称している。

ルターやカルビンの宗教改革の活動拠点になり、その後、フランスからプロテスタントの難民(ユグノー)を受け入れた。1860年代にアンリー・デユナンが赤十字運動を始めたことをきっかけとして、国際都市を売り物にして歩んだ。

このジュネーブで一番に感じることは、交通の便利さである。空港から都心までは、車で15分程度。電車では10分で可能。空港の規模も小さく、着陸して30分後にはホテルに落ち着いていることになる。出発の際も、30分ぐらい前に空港へ行けば十分だ。

 バスが極めて発達していてどこへでも行ける。便数が多く、時刻表を見る必要が無い。たいていは2両連結の大型バスである。トロリーバスの路線も多い。かつてトラム(路面電車)が多く存在したが、数十年前、日本と同様、廃止された。ところが便利さが見直され、この数年は、旧線の復活や新路線の建設ラッシュで、街中が工事である。幹線道路を走っているので、地理に暗い旅行者でも容易に行き先が分かり、安心して乗れる。スマートな新型車両は、静かで、段差も低く、揺れも無くて、バスよりは乗り心地が良い。

各ホテルが、乗り放題の乗車パスを滞在者に交付する。もちろん費用は、宿泊代に上乗せされているのだろう。このパスを利用してみて、その便利さに驚く。ちょっとした距離でも、行き交うバスや電車にすぐ飛び乗れるのである。

車がなければまったく生活できなくなってしまった日本の地方都市と比較して、何ゆえにジュネーブの公共交通手段はかくも発達しているのだろうか。運営しているTPG (Transports Publics Genevois)は、公企業体であるが、なんと経費の58%を政府からの補助金で賄っているのである。そして、TPGの経済活動は、国や地域に2.8倍の経済波及効果をもたらすと、補助政策を正当化している。

 

強力な観光都市政策

常に清潔な街路は、住民の努力ではない。政府が発注した業者により早朝から清掃が行われ、公園の花壇も常に満開の花が植えられる。ジュネーブ観光局により、毎週、音楽大会やアンティーク・カーのレースなど多彩なイベントが実施される。夏の有名な花火大会だけではなく、冬でも湖畔で花火が打ち上げられる。このようにして観光客を呼び込み、国際都市ジュネーブを作り上げているのである。

そして、一度ジュネーブで国際会議に出席した者は、便利な交通、安全な街、心地よいホテル、中立の外交政策を考え、再び会議をジュネーブで開催してもよいと考えるのである。

 

この徹底的な国際都市政策にもマイナス面はある。まず、第一に物価が東京に次いで高いことである。外交官や国際機関の職員、観光客、また、ジュネーブの銀行にやってくるオイル・マネーを持った金持ちなどを相手に、街には高級品があふれ、自然と物価は高くなる。首都ベルンに比較して2割は高い。

伝統的に難民を受け入れてきたが、最近は、多数のコソボ難民を受け入れたために治安が悪化したとの報道もある。

そして人口の半数が外国人であり、ジュネーブ人と外国人との二重社会になっている。前者はフランス語を話し、後者は主として英語を話す。前者は、後者と積極的に付き合おうとはしない。隣人が外国人ばかりの生活にあまり心地よさそうではないが、教育費無料や高度な医療水準などの高い行政サービスと世界でトップレベルの高賃金の雇用機会のためには我慢しなければならないものと割り切っているようである。

このドライな考え方の一端が、ジュネーブ政府を悩ませているホテルの料金に顕著に現れている。ジュネーブの収容能力を上回る大きな会議が開かれると、途端にホテル料金が通常の何倍にも跳ね上がるのである。自由競争原理を絵に描いたホテル経営で、国際都市の評判を著しく落としている。しかし、ジュネーブ人は「大型ホテルの雇われマネジャーが、営業成績を上げるために「あこぎ」なことをする。ジュネーブのホテル・オーナーではない。」と言い訳をする。もちろん、小さい地元ホテルも同様値上がりをしているのだが

 

「横並び」で地方が活性化するのか?

スイスでは、国際都市の道を選んだジュネーブに限らず、時計産業を育てたニューシャテル、政治都市のベルン、金融商業都市のチューリッヒ、化学工業のバーゼル、スキー・リゾートのダボス、ワインのヴべなど、それぞれの都市は、他とは異なる特徴ある産業を中心に成り立っている。かつては外国の傭兵として出稼ぎをし、スイス人同士が戦わなければ生活できなかったほど貧しかった偏狭の山国が、近世の交通手段の発達による経済活動の広域化をビジネス・チャンスにして、知恵を絞ってその地域にあった特徴ある産業を興し、世界一豊かな国になった。

一方、日本では、どこも同じ新幹線の駅やショッピング・モール、同じような市民ホールや病院の建設など、「横並び」を意識した街づくりを行っている。しかし、市民ホールはあっても利用する行事はなく、病院は建てても経営難で閉鎖同然。ジュネーブ人が見ると、「この町の産業は一体何か? 今までのバス・サービスを廃止して、どうやって生活するのか? どうして、素晴らしい古い町並みを壊すのか?」と次々と素朴な疑問を呈するだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

国際人養成実践講座   

 ビジネスマンや役人が国際会議に出席したり、外国人と交渉するにあたって役立つノウハウを、順次まとめてまいります。                

 

 

 

 

 

                   

                      

「国連」という錯覚  日本経済新聞出版社

 <書評>

 

 

 

 

 

inserted by FC2 system